鹿の王 上橋菜穂子

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Kindle を購入して良かった!としみじみ感じた1冊(電子書籍でも1冊とカウントするんだろうか? ^^;)を読了しました。  お値段は安いうえに文庫本を待つ必要もなくこのタイミングでこの物語を読むことができたなんて!!  本日の KiKi の読了本はこちらです。

鹿の王
著:上橋菜穂子 角川書店 Kindle 版

51-LzXf3HXL._AA278_PIkin4,BottomRight,-44,22_AA300_SH20_OU09_.jpg  (Amazon)

強大な帝国から故郷を守るため、死兵となった戦士団<独角>。  その頭であったヴァンは、岩塩鉱に囚われていた。  ある夜、犬たちが岩塩鉱を襲い、謎の病が発生する。  その隙に逃げ出したヴァンは幼い少女を拾うが!?
※本電子書籍は「鹿の王 上 ‐‐生き残った者‐‐」「鹿の王 下 ‐‐還って行く者‐‐」を1冊にまとめた合本版です。巻末に電子版オリジナルイラストが収録されています。  (Amazon Kindle 上下合本版 内容紹介より転載)

強大な帝国・東乎瑠にのまれていく故郷を守るため、絶望的な戦いを繰り広げた戦士団「独角」。  その頭であったヴァンは奴隷に落とされ、岩塩鉱に囚われていた。  ある夜、一群れの不思議な犬たちが岩塩鉱を襲い、謎の病が発生する。  その隙に逃げ出したヴァンは幼子を拾い、ユナと名付け、育てるが―!?  厳しい世界の中で未曾有の危機に立ち向かう、父と子の物語が、いまはじまる―。  (Amazon 単行本上巻の内容紹介より転載)

不思議な犬たちと出会ってから、その身に異変が起きていたヴァン。  何者かに攫われたユナを追うヴァンは、謎の病の背後にいた思いがけない存在と向き合うことになる。  同じ頃、移住民だけが罹ると噂される病が広がる王幡領では、医術師ホッサルが懸命に、その治療法を探していた。  ヴァンとホッサル。  ふたりの男たちが、愛する人々を守るため、この地に生きる人々を救うために選んだ道は―!?  (Amazon 単行本下巻の内容紹介より転載)

久々の上橋ワールドは期待に違わず今作でも、奴隷の話あり、植民地支配がもたらすあれこれの問題あり、人種差別の問題もあり、医学もあり、異なる宗教観もあり、生態系の問題までもを含む、多すぎるぐらいの要素がぶちこまれたごたまぜ物語でありながらも、それが逆にリアリティを感じさせるという素晴らしい物語世界を披露してくれました。  先月は体調不良もあって読書が進まなかったという面もあったけれど、実はこの作品を「2度読み」してじっくりと味わっていたため冊数が進まなかったという面もあったことをまずは告白しておきたいと思います。

Review の冒頭でいきなり「著者あとがき」に触れるのもなんだけど、そのあとがき冒頭で上橋さんが仰る

自分の身体ほど、わからないものはない・・・・・。
  ここ数年、老父母と、更年期に達した自分の身体の不調にふりまわされているのですが、50の坂を越えれば、若い頃と違って、「下り坂をくだる速度を抑える」ことはできても、「ぐんぐんと上り坂に向かう」ことはないという、人の身体の容赦ない真実を感じる度に、いま、自分の身体の中でどんなことが起きているのだろうと、思うようになりました。

というのはまさに KiKi の皮膚感覚です。 (何せ上橋さんとは同世代 ← それが嬉しくもあり彼女との差に落ち込むこともあり 苦笑)  祖母が認知症だったので自分が同じ道を辿らないようにと彼女なりの努力をしていたにも関わらず結局同じ病に罹患し、今では KiKi が自分の娘であることさえ忘れてしまったばぁば。  ばぁばよりも遥かに年長でありながら未だに頭だけはしっかりしているじぃじ。  認知症に罹患したといえどもそれを除けば健康そのもので今ではほんの1年前に大腿骨を骨折したことを全く感じさせないばぁば。  頭だけはしっかりしているのに、狭心症を患い足元が覚束なくなっているじぃじ。  

認知症が加齢とともに発生する病でありながらも罹患する者としない者を両親に持つ KiKi が日々感じている 「なぜ、ばぁばだけが・・・・?(世の中には数多くいるとは言えども)」という想いは、この物語の主人公であるヴァンや物語世界で猛威をふるう黒狼病に耐性のない人々が共通して抱える大きな疑問であるだけに身につまされます。  

と同時に、今、現実社会では猛威をふるいはじめた「エボラ出血熱」のニュース報道が流されない日はなく、そのニュースで印象が薄れつつあるシリアでの「生物兵器使用疑惑」な~んていう話もこの物語で描かれる様々な出来事と何気にリンクして思い起こされ、ついつい現実世界を引き寄せながら「読まされてしまう」物語だったと感じます。

そして、病の発生ではその治療の妨げの1つとなるものに「異文化の壁」があるというのも現実世界を映しだしていると感じます。  今回のエボラ熱の発生中心地である西アフリカでは先進国の医療支援チームが現地に入ったばかりの頃には、「あの西洋人の医者の所に行くと殺されてしまう」というような噂が現地の人の間に広がり治療の妨げになったと聞きますし、彼らの埋葬文化が拡大の一因とも考えられるらしいのですが、それを一概に否定することができないのが予防の妨げになっているとか、とか、とか・・・・。  

この物語では「黒狼病」が征服民である東乎瑠〈ツォル〉の民のみ耐性がないということで、その東乎瑠〈ツォル〉の属領とならざるをえなかったアカファ王国の「呪い」であると噂され、それがさまざまな憶測や陰謀の火種となっていくうえに、宗教観の違いにより治療がままならない様子も描かれています。  そしてその背景には東乎瑠〈ツォル〉帝国から送り込まれた入植者たちによって伝統文化を踏みにじられた民族の存在があり、その入植者が持ち込んだ農産物や家畜により生態系が崩れていく様までが描かれています。  いやはや、こうなってくるとこれはもう「夢物語ファンタジー」というよりは、まさに「現実にあった(もしくはありうる)物語」と呼んでもおかしくないぐらいのものではないかしら・・・と思わずにはいられません。

病が大々的に取り上げられているし、上橋さんご本人も「本作では医学的なことを取り上げているので親類のお医者様の指導・監修を受けた」と仰っているので、医療メインの物語とも読めるわけですが、KiKi が強烈なメッセージの1つとして受け取った本作のモチーフは「征服者 vs. 被征服者」の物語ということでした。  ある意味では単純な対立構図のように見えるこの二者の間にどれだけ複雑なものが生まれるのかは、もう長年繰り返され続けているガザ地区におけるパレスチナ人とイスラエル人の攻防を思えば容易に理解できます。  そこには単純な異民族を支配征服した、されたというような関係のみならず、あるいは宗教観の相違というだけに留まらず、その紛争に心ならずも巻き込まれてしまった人々それぞれが抱える事情があるのです。  つまりイデオロギーや精神論、押し付けの道義感、お気楽平和主義などで解決できる問題ではないのです。

この物語の中でも帝国を広げ続ける東乎瑠の為政者がすべからく残忍とは描かれていません。  もちろん残忍なリーダーもいるけれどその一方で実に賢く様々な被征服民の事情を熟慮し、可能な限り温厚な政治を取ろうとするリーダーの姿も描かれています。  逆に被征服民の中にも火馬の民のように過激化している民(その姿には何気に「イスラム国」の人々の姿がダブるような気がするのは気のせいでしょうか?)もいれば、支配者との関係を可能な限り緩やかに保ちながら言ってみれば「したたかに」生き延びる民の姿も描かれています。  もちろん彼らの生活は決して安楽なものではないものの、だからと言って不幸のどん底か?と言えばそうでもなかったりもする・・・・・そんな描写に上橋さんの知性とこの人の本業(?)が何であったか?を感じさせられます。

ある登場人物は人間の身体を「森」と表現し、別の登場人物は同じく人間の身体を「国」と表現しています。  「森」も「国」もある形をなしているわけですが、そこには無数の命が生きづき、その生命がゆるやかな関係を保ちながら存在しています。  これを人体のみならず人間社会と読み替えた時、この人間社会はこの世界の生態系と人間の体内に存在する免疫系の間に存在する人間と言う存在のちっぽけな社会とも言えるわけです。  私たち人類は科学とか進歩という名のもとにそれらを支配し、人間にのみ有益なように利用しようとしてきた一面があるわけだけどその行為は今現在、私たちが気がつき始めたこと以上に傲慢なことだったのかもしれません。  

「何が命をつなぎ、何が命をうばうのか、その因果の糸はあまりにも複雑で辿りようもない」。

この言葉が胸に響きます。  それでもその複雑な因果の糸を必死で解き明かそうとするもう1人の主人公医術師ホッサルは現代の先進国に暮らし科学の恩恵を享受している私たちの姿です。  そう考えてくるとホッサルと KiKi の違いは職業というような表面的なことのみではなく、己の傲慢さ、身勝手さ、冷酷さをどれだけ自覚しているかの差のような気さえします。  

東乎瑠の奴隷となった母親から火馬の乳でつくった食べ物を与えられていた少女ユマは黒狼に噛まれても生き延び、火馬の乳は穢れた食べ物として口にしなかった東乎瑠の貴人は病に倒れました。  その描写に人間というこのどうしようもない種族が持つある種の傲慢さとそれでも必死に生き抜こうともがく人間のささやかな努力、そして結果として生き延びた生命の輝きのようなものが描かれていると感じました。

そしてそれを感じた時、初めてヴァンの父親の言葉が示す深い洞察が胸を打ちます。

「鹿の王」とは「群れが危機に陥ったとき、己の命を張って群れを逃がす鹿......本当の意味で群れの存続を支える尊むべき者」を指す。  とは言え、「そういうやつがいるから、生き延びる命もある。  助けられた者が、そいつに感謝するのは当たり前だが、そういうやつを、群れを助ける王だのなんだのと持ち上げる気もちの裏にあるものが、おれは大嫌いなのだ」。

という言葉。  そこにも私たち現代人がある意味で「生命」を「観念的に捉えている」ことを思い出さずにはいられません。    

物語の最後で生を、種を繋ぐために必要な「家族」の姿が描かれているのが実にこの作者さんらしい描写だと感じました。  でもそこで「良かった、良かった」(と手放しで言えるほどの結末でもないのですが・・・・ ^^;)で終わらせず、最後の最後にさらに重い言葉を投げかけてくるのもこの作者さんならではだと感じます。  曰く、

生き物はみな、病の種を身に潜ませて生きている。  身に抱いているそいつに負けなければ生きていられるが、負ければ死ぬ。  ほかのすべてと、同じことだ。

いや~、相変わらずこの方の物語は深い!!

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